パートさんの社会保険料が3年間軽くなる?任意特定適用事業所を考える会社の「保険料調整制度」
全国の人事・給与計算担当のみなさま、こんにちは!
年末の繁忙期が近づいてきましたね。この時期になると、毎年こんなやりとりが起きていませんか?
パートのAさんは、時給1,150円、1日4時間・週5日の勤務。仕事が早く、お客様からの信頼も厚い方です。会社もその働きぶりを評価していて、賞与も年2回支給しています。一番忙しい12月こそ、Aさんにシフトに入ってほしい。
ところが11月の終わり、Aさんが申し訳なさそうにこう言います。
「すみません、12月はこれ以上入れません。130万円を超えてしまうので…」
Aさんの年収は、賞与を含めて約128万円。あと20時間ほど働くと、130万円に届いてしまいます。
会社は、一番忙しい時期に、一番頼りになる人のシフトを減らさなければなりません。穴を埋める社員の残業は増え、年末だけの短期の求人には、なかなか応募が来ません。
Aさんも、本当はもっと働きたいし、職場に迷惑をかけていることも分かっています。それでも、扶養から外れるわけにはいかないのです。
年収が130万円以上になると、配偶者の社会保険の扶養から外れ、自分で国民年金と国民健康保険の保険料を支払うことになるからです。
「それなら、会社の社会保険に入れてもらえませんか?」
ここに、もう一つの壁があります。通常の会社(特定適用事業所でも任意特定適用事業所でもない会社)では、1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数がフルタイムの4分の3未満のパートさんは、社会保険に加入できません。
フルタイムが週40時間の会社なら、週30時間以上働く必要があります。お子さんの保育園の送り迎えがあるAさんには、現実的ではありませんよね。
扶養を外れると、保険料は全額自分で払う。でも、会社の社会保険には入れない。だから、働きたくても働けない。「130万円の壁」の正体は、この行き止まりです。
この状況を会社の側から変えられるのが、任意特定適用事業所(労使の合意で、週20時間以上のパートさんを社会保険の加入対象にする事業所)です。
一方で、社会保険に入れば、Aさんの給与から保険料が引かれ、手取りは減ります。そこで2026年10月1日から始まったのが、「保険料調整制度」です。
今回は、従業員50人以下で、これから任意特定適用事業所になろうと考えている会社に向けて、制度の中身と、申し出る前に知っておきたい注意点を整理します!
保険料調整制度ってどんな制度?
新しく社会保険に加入する短時間労働者(パートさん)の保険料の本人負担を、通算3年間、軽くできる制度です。
仕組みはこうです。
・本人負担を軽くした分は、会社がいったん追加で負担して納付する
・その追加負担分は、3か月後の保険料から全額差し引かれる(還付)
・最終的に会社が納付する保険料は増えない
・本人が将来受け取る年金額も減らない
例:標準報酬月額88,000円のパートさん(協会けんぽ福岡支部・40歳未満の場合)
・本来の本人負担:月12,500円(厚生年金8,052円+健康保険4,448円)
・制度利用1〜2年目:月6,250円(6,250円の軽減)
・制度利用3年目:月9,375円(3,125円の軽減)
※健康保険料率は10.11%(令和8年3月分から)で計算しています。別途、子ども・子育て支援金がかかります(制度の対象外です)。
本人と会社の負担割合は、標準報酬月額によって決まっています(本人:会社)。
・88,000円以下 1〜2年目 25:75 / 3年目 37.5:62.5
・98,000円 1〜2年目 30:70 / 3年目 40:60
・104,000円 1〜2年目 36:64 / 3年目 43:57
・110,000円 1〜2年目 41:59 / 3年目 45.5:54.5
・118,000円 1〜2年目 45:55 / 3年目 47.5:52.5
・126,000円 1〜2年目 48:52 / 3年目 49:51
月収が低い方ほど軽減が大きく、3年目は軽減が半分になります。
冒頭のAさん(月収約10万円、標準報酬月額98,000円)の場合、本来なら月13,921円になる本人負担が、1〜2年目は月8,353円になります(協会けんぽ福岡支部・40歳未満の場合)。
対象になる会社・ならない会社
対象になる会社
2026年10月1日から2035年9月30日までの間に、任意特定適用事業所となった事業所です。
対象にならない会社
・2026年10月1日の時点で、すでに特定適用事業所(任意特定適用事業所を含む)になっている事業所
・任意特定適用事業所になる前に、厚生年金保険の被保険者数が常時51人以上になった事業所
2つ目は見落としがちです。被保険者数が50人に近い会社は、51人以上になる前に任意特定適用事業所になるかどうかで、この制度を使えるかどうかが変わります。
対象になる従業員
短時間労働者(週の所定労働時間が20時間以上で、フルタイムの4分の3未満、学生ではない方)として加入し、標準報酬月額が126,000円以下(月収13万円未満)の方です。
制度は事業所単位で適用されますので、「希望するパートさんだけ」という使い方はできません。
「3年間」は会社単位。申し出のタイミングに注意
ここが一番の注意点です。3年間は、パートさん一人ひとりの加入日からではなく、会社が制度の利用を申し出た月から数えます。
例:2026年10月に制度の利用を始めた会社の場合
・2026年10月に加入したAさん:3年間軽減される
・2027年10月に加入したBさん:軽減されるのは2年間
申し出について、押さえておきたい点は次のとおりです。
・申出期限は、任意特定適用事業所となった日から2年以内(2026年10月中になった場合は、2028年9月末まで)
・利用開始は、申出書が受け付けられた月から。さかのぼって利用することはできない
・いったん始めたら、会社の都合で途中でやめることはできない
・「保険料調整開始申出書」を、事務センターまたは管轄の年金事務所へ郵送か窓口で提出する(電子申請は不可、添付書類なし)
任意特定適用事業所の申し出(同意対象者の2分の1以上の同意などが必要です)と同時に出すのか、時期をずらすのか。申し出る前に決めておきましょう。
給与計算で気をつけたい3つのこと
① 本人負担額が、人によっても年によっても変わる
標準報酬月額ごとに負担割合が違ううえ、3年目と制度終了後には本人負担が増えます。給与ソフトが対応しているかを確認し、パートさんには「いつから、いくら増えるのか」を事前に書面で伝えておきましょう。「聞いていません」というトラブルを防げます。
② 賞与の保険料、介護保険料、子ども・子育て支援金は対象外
これらは通常どおりの負担です。
③ 保険料の納付と届出を遅らせない
保険料を納付期限までに納めず、督促状の期限までにも納めなかった場合、その月の追加負担分は還付されません。会社の持ち出しになってしまいます。資格取得届や月額変更届も、遅れずに提出しましょう。
日本年金機構 チラシ「2026年10月1日から短時間労働者の社会保険料負担を支援する制度が始まります」
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hokenryochosei/gaiyo.files/chirashi202610.pdf
日本年金機構 保険料調整制度とは
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hokenryochosei/gaiyo.html
最後に
保険料調整制度は、「パートさんを社会保険に入れたいけれど、手取りが減るのが心配」という会社の背中を押してくれる制度です。ただし、申し出のタイミングと、3年後に本人負担が元に戻ることの説明を間違えると、かえって不信感につながります。
「任意特定適用事業所になった場合の、会社の負担とパートさんの手取りを試算したい」 「パートさん向けの説明資料と同意書を整えたい」
など、お困りの際にはいつでもご相談ください。 御社にお伺いし、社長や役員の方、給与計算担当者のお悩みをお聞きします。
松本労働法務事務所 代表 社会保険労務士 松本洋太 chellissta@gmail.com