Column

残業代を支払いたくないとき?

ありますよね。おっしゃっていることは分かります。

社長、後ほどゆっくりお話し聞きましょうか。


人事・給与計算担当のみなさま、こんにちは。

企業運営において、正しい労務管理が行われていないと、思わぬトラブルや法的リスクに繋がる可能性があります。今回は、企業が残業代を支払いたくないと感じる理由について考え、それに対する適切な対応策をお伝えします。

いらすとやより いそがしいマン

そもそも残業時間とは?

残業代を適正に支払うためには、残業時間の正しい定義を理解することが重要です。

労働基準法では、1日8時間、1週40時間を超える労働時間が「法定外労働時間(残業)」となり、その時間には1.25倍の単価で残業代を支払う必要があります。その他、1ヶ月あたりの残業時間が60時間を超える場合には、1.5倍の単価で残業代を支払う必要があります。

また、会社が独自に定めた所定労働時間を超えた場合も、割増賃金を支払わなければならないケースがあるため、就業規則や労働時間の取り決めをきちんと確認しておきましょう。

 

残業代を支払いたくない理由トップ3

使用者が残業代を支払いたくないと感じる理由は、主に次の3つに分かれるのではないでしょうか。

 1. 残業時間のカウント方法がわからない

 2. 残業が本当に必要なのか明確でない

 3. 会社の資金が足りない

それぞれの理由について見ていきましょう。

 

1. 残業時間のカウント方法がわからない場合

残業代を支払いたくない理由として最も基本的な問題は、残業時間の正しいカウント方法がわからないというケースです。この場合、まずは勤怠管理の方法を明確にすることが必要です。

特に参考になるのが、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。

ガイドラインによると使用者には労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する責務があります。

勤怠管理の方法の選択:社長や上司が毎日、従業員の出退勤時間を直接確認するのか?タイムカードを利用するのか?あるいはクラウド勤怠システムを導入するのか?従業員の自己申告制にするのか?

できれば、集計や管理(残業申請・承認など)がやりやすい、クラウドシステムを導入しましょう。

労働時間の定義:労働時間とは、使用者が明示的または黙示的に指示をした時間です。例えば、制服への着替えや業務後の後始末、待機、研修などが使用者の指示のもとで行われた場合、これらも労働時間としてカウントされます。

ここは会社によって色々なケースがあると思います。一つ一つ確認し、会社のルールを定めていきましょう。

 

2.残業が本当に必要か明確でない場合

次に、残業が本当に必要なのかが明確でないという問題です。ここが一番難しいですね。

この場合は、まず社内のルールを明確にし、従業員が勝手に残業を行わないようにすることが必要です。

残業は使用者の命令によるものと周知する:基本的に残業は、使用者の命令によって行うものです。

従業員が勝手に、自由意志で行えるものではありません。 

残業申請のルール作り:従業員の判断で残業をする場合には事前に申請をして、使用者が承認することで初めて残業が可能となるルールを定めましょう。

突発的に業務が発生して、事前に申請ができない場合でも、事後速やかに申請をすることをルールとしましょう。

就業規則に、残業は必ず事前または事後に申請し、承認を得ることを明記します。たとえば、次のような規定が考えられます。

第⚪︎条(時間外労働)
 業務の都合により所定労働時間外に労働させることがある。
2 従業員が、職務の都合で時間外労働をするときは、事前または事後に会社の承認を得るものとし、
 自己の勝手な判断による時間外労働は認めない。

このように明確なルールを定めることで、従業員が勝手に残業をすることを防ぎ、必要な場合にのみ残業を許可する仕組みが作れます。 

また、常態的に残業が発生している場合には、現在の業務に対して人員が不足している可能性があります。いずれにしても、従業員が何をしているのか、把握することが第一歩です。

意外と、社長が知らないところでゆったりと仕事をしていることもありますし、想像以上に仕事をしてくれていることも良くあります。

 

3. 会社の資金が足りない場合

最後に、会社の資金が足りないために残業代を支払いたくないというケースです。

この場合、財務分析や売上高および粗利の確保など経営改善策を講じるとともに、残業を減らすための施策を講じる必要があります。

業務効率化:残業が常態化している場合、業務の分担や効率化を検討することが重要です。業務の優先順位を見直し、無駄な業務や非効率なプロセスを削減することで、残業を減らすことができるかもしれません。

今いるスタッフが、「朝出社して退社するまで」行なっている業務を全て漏れなく洗い出す手法があります。職務分析という手法ですが、やってみると本当に必要な業務ばかりではないことに気が付くはずです。もっと効率的にできること、時間を短縮できること、そもそもやらなくてよいこと。

ここは、心を鬼にして洗い出しましょう。そして「あるべき姿」へ向けて業務を組み替えましょう。

 

固定残業代制やフレックスタイム制、時短勤務の導入:労働時間を柔軟にすることで、残業を削減する方法もあります。フレックスタイム制や時短勤務の導入を検討するのも一つの手です。

また、一月あたりの固定残業時間を設定し、それを超える場合は別途残業代を精算する方法もあります。例えば一月あたり40時間の固定残業時間を設定した場合、39時間も残業したAさんと、10時間しか残業していないBさんは、どちらも同じ給与です。

固定残業時間制を適正に運用すると、実は従業員の意識が業務効率化や残業時間の短縮に向いていきます。だらだらと残っていても、会社も自分もメリットがないことが理解できると、行動も変わっていくのです。

 

最後に

残業代を支払いたくない理由として、残業時間の把握方法や残業の必要性が不明確である場合が多いかもしれません。

しかし、正しい勤怠管理と適切なルール作りを行うことで、残業の適正管理が可能になります。ルールを明確にし、従業員と会社で話し合った上で、双方にとって納得のいく働き方を目指しましょう。

不明点があれば、いつでもご相談ください。

松本労働法務事務所 
代表 社会保険労務士 松本洋太
chellissta@gmail.com